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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)889号 判決

福島県東白川郡棚倉町大字寺山字亀崎五番地

(送達場所

東京都新宿区四谷四丁目三〇番地二三-五〇二号)

原告

東菱酒造株式会社

右代表者代表精算人

古市瀧之助

東京都新宿区四谷四丁目三〇番地二三-五〇二号

原告

古市瀧之助

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

高辻正己

右指定代理人

合田かつ子

山諸剛二

佐々木禄也

三の輪和夫

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告東菱酒造株式会社に対し金二億九四三六万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告古市瀧之助に対し金四六八〇万円及びこれに対する右同日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

(当事者)

1 原告東菱酒造株式会社(以下「原告会社」という。)は昭和五四年ころ酒類の製造販売等を業としていた株式会社、原告古市瀧之助は右当時原告会社の代表取締役であつたものである。

(原告会社に対する不法行為)

2 酒類の検定不履行

(一) 原告会社は、昭和五三年ころまでに、米のビール(商品名「リビエル」)を開発した。そして、原料として「玄米」を用いるよりも、「もみ米」を用いた方が味のバランスが保たれることから、昭和五三年一一月中旬ころ、分離前相被告の白河税務署統括国税調査官大山清孝(以下「大山」という。)に、リビエル製造の原料に「もみ米」を使用したい旨申し入れた。

(二) 昭和五四年三月五日、白河税務署上席国税調査官橋本芳洋は、原告会社に対し、「もみ米」を原料として米のビールを作ることは差し使えないが、「もみ米」を発芽させて使用するのは待つてほしい旨回答した。そこで、原告会社は、同年五月五日、米をもみのままで使用するA-三号リビエルの仕込みを開始した。同月一六日、A-三号は上槽に適するところとなつたので、原告会社は、白河税務署に、酒税法四一条の成功検定をなすよう請求した。

(三) 白河税務署は、大手ビールメーカーとの間に競合を生ずることとなりリビエルの検定をして良いものかどうか独自で判断できず、仙台国税局や国税庁と協議を続けた。その間、大山は原告会社に対し、「もみ米」を清酒の原料として使用することは、その酒類が酒税法上の清酒に該当するが疑義がある旨述べて、A-三号の品質の低下、腐敗のおそれを知りながら、故意に検定を避け続けた。

しかしながら、実際には、以下のとおり、リビエルの原料、製造方法には疑義の余地はなかつた。

(原料)原告会社は当初から仙台国税局、白河税務署の係官に対しリビエルの製造に「もみ米」を使用していることを明らかにしていた(リビエルには発泡性があるが、これは原料に「もみ米」を用いているからである。なお、原告会社は、昭和五四年三月一五日、A-三号の仕込みを「もみ米」から「粉米」に訂正申告しているが、A-三号は「もみ米」を粉砕した「粉米」を使用したのであるから、右訂正申告は原料の変更ではなく表現の訂正に過ぎない。また、右訂正申告は、白河税務署から、「もみ米」については検討中であるから「粉米」に訂正してほしいと要請され行つたものである。)。そして、「もみ米」を原料として使用した酒類が酒税法上の清酒に該当することは何ら疑義がない。なぜならば、清酒とは「米、米こうじ及び水を原料として醗酵させてこしたもの」をいう(酒税法三条三号)ところ、「もみ米」は食糧管理法上の「米穀」 に該当し、かつ、酒税法上の「米」を食糧管理法上の「米穀」と別個に介する理由は存しないからである。

(製造方法)原告会社は、当初から仙台国税局、白河税務署の係官にリビエルの製造方法を説明していた。また、右係官らは、説明に不明、矛盾点があれば強制的な調査権限を行使して直ちに疑義を解消できるのである。なお、リビエルの製造方法は、通常の清酒とは異なり、浸清の後蒸さないでそのまま置き、発芽させてから乾燥するのであるが、清酒の製造について蒸すべきであるという制約はないし、発芽を禁ずる規定もない。

(四) 大山が検定を避け続けた結果、同年五月末ころ、A-三号の品質が低下した。そこで、原告会社は白河税務署と協議のうえ、同年六月一日火入れを行つたが、リビエルのアルコール分が低いところから品質の回復は成功せず、同月二七日ころ、全部腐敗した。そして、A-三号の腐敗菌が隣接タンクに伝染するなどしたため、隣接タンク八本の米のビールが腐敗による販売不能となつたり、酸臭が強く、返品され、あるいは、クレームをつけられ代金支払を拒否されたりした。

3 取引先への圧力

(オリオンビール株式会社(以下「オリオンビール」という。)関係)

(一) 原告会社は、オリオンビールとの間で、昭和五三年一一月ころ、リビエルについての技術販売提携を合意した。

(二) 同年一二月二六日、白河税務署に仙台国税局石倉間税部長、野田酒税課長、酒井白河税務署長、大山、原告古市らが集まつた。その際、原告古市は、右(一)の技術販売提携のことを出席者に話した。

(三) 右国税関係職員らは、沖縄国税事務所を通じて、オリオンビールに対し、同月末ころ、オリオンビールが原告会社と提携をするようになれば国税局は面倒を見てやらないという姿勢を示し圧力を加えた。その結果、オリオンビールは原告会社に対し、昭和五四年一月一〇日、右(一)の提携合意を撤回する旨通知し、右提携の話は破綻した。

(ヌマノインターナショナル株式会社(以下「ヌマノ」という)。関係)

(四) 原告会社は、ヌマノとの間で、昭和五四年八月ころ、原告会社がヌマノから清酒を桶飼いで輸入する旨の輸入販売契約締結のための交渉を進めていた。

(五) ところで、従来、ヌマノの清酒の輸入、国内販売は松下鈴木株式会社(「松下鈴木」という。)が行つていたから、原告会社の取引参入は松下鈴木のシェアに影響するものであつた。そこで、原告会社とヌマノの間では、契約が具体化するまでは右(四)の交渉を秘密にしておくとの合意があつた。しかし、原告会社は、監督官庁である白河税務署には右契約を報告しておくべきと考え、同年九月ころ、右(四)の交渉経過を説明した。

(六) それから間もなく、白河税務署署員大山らは仙台国税局を通じて原告会社に圧力を加えるために、松下鈴木に右(四)の情報を知らせたので、松下記は、ヌマノに対し、原告会社に酒を輸出するならばヌマノとの取引をやめる旨通知した。その結果、ヌマノは原告会社との輸入販売契約締結を断念した。

(差押への関与)

(七) 原告会社は東駒株式会社から工場財団の所有権移転を受けたので、福島県は、原告会社に対し、昭和五三年五月三一日、不動産取得税四五八万四〇〇〇円の賦課処分を行い、原告会社所有の不動産(香川県所在、価格約九〇〇〇万円相当)について、昭和五四年一二月三日滞納処分による差押をした。

(八) 大山は、原告会社に圧力を加える目的で、原告会社が最大の顧客である株式会社祭原(以下「祭原」という。)に対して有している売掛金債権の存在を福島県に知らせた。これにより、同県は、昭和五五年一月九日、大阪市の祭原本社において原告会社が祭原に対して有する売掛金債権中昭和五四年一二月一六日分以降五四九万一四九四円について滞納処分による差押を行い、この結果、原告会社は祭腹からの信用を失うに至つた。

(過剰調査)

(九) 仙台国税局、白河税務署は、原告会社に圧力を加える目的で、昭和五四年度には延べ三四八人の係官を原告会社に派遣して種々の調査を行い、その結果原告会社は取引先や小売店から原告会社への来社や連絡を嫌がられ、営業に重大な支障を受けた。

4 信用毀損

大山は、昭和五四年七月六日、テレビ朝日、政経東北等の記者に対し、その職務の執行に関し、「原告会社の経営はほんとうは危機的な状態にあるのだ、それを原告古市がわざわざ騒いではぐらかそうとしているのだ」と虚偽の事実を延べ、それを新聞等に報道させ、その結果リビエルの品質に関する信用を棄損し、売行き不信を招来した。

5 損害

(一) 右2(四) のタンク九本損失による損害 金五三八一万円

タンクの容量は一本当たり一〇キロリットル、合計九〇キロリットル(五〇〇石)であり、リビエル一石当たりの価格は一一万九二〇〇円であるから、タンク九本分の価格は合計五九六〇万円であり、これから酒税相当額の五七九万円を控除すると、損害額は五三八一万円となる。

(二) その他リビエルの販売不審による損害 金二億四〇五五万二〇〇〇円

リビエルは、昭和五四年五月発売当初、年間約一万石の売上げが見込まれていたところ、実際の売上高は約一〇〇〇石にとどまつた。これは、右2ないし4によるものである。ところで、リビエルの純利益は一本(三五〇ミリリットル)当たり五二円、一石当たり二万六七二八円であるから、右販売不振により原告会社が喪失した利益は九〇〇〇石分二億四〇五五万二〇〇〇円となる。

(三) 以上合計 金二億九四三六万二〇〇〇円

(原告古市に対する不法行為)

6(一) 山田忠義は、原告会社の代表取締役であつたが、原告会社に対する数々の背任行為が発覚したため、昭和五三年一二月の株主総会で解任され、取締役の地位をも失つた。

(二) 昭和五四年一月一七日、仙台国税局関税部長石倉文夫と山田が会談した。その席上、石倉は、「東菱が山田氏を取締役から外すのなら国税局は免許取得も含めて重大な決意をしなければならない」と述べ、山田との間で、原告古市を原告会社から放逐して山田を復帰させるため強硬措置をとることを決意した。

7(一) 白河税務署長は、原告会社に対し、別紙一のとおり、酒税法三一条に基づく担保提供命令等をなした。しかし、昭和五四年一月一八日の増担保提供命令には合理的な根拠はなく、白河税務署が右6(三)の合意の実行としてなしたものである。

(二) 右担保提供命令の増担保について、大山は原告古市に対し、昭和五三年一二月分の酒税の莫大なので担保が不足すると説明した。そこで、原告古市は、昭和五四年一月一八日、大山に対し、増担保相当の保存は同月末日までに解除すること、昭和五三年一二月に延長した分はその担保命令期限である同年六月末に解除し再延長しないこと、増担保については書類上の記載にとどめ保存酒類に封印しないこと、の三点を条件としてならば担保提供命令に応じる旨申し入れた。大山は、右の三条件を履行する意思がないにもかかわらず、右6(二)の合意の実行手段として、原告古市に右条件を了承した旨告けたので、原告会社は、増担保を提供した。

白河税務署長ないし白河税務署は、右の三条件に反し、昭和五四年一月末になつても増担保分を解除せず、同年六月にはさらに六か月の担保延長を行い、また、昭和五五年一月一九日には原告会社所有の清酒(製造減価の六〇パーセント換算で約一億九〇〇〇万円相当、卸価格で八億三八〇〇万円相当)に封印した。

(三) 原告会社は、昭和五四年一二月一三日、昭和五五年度分の担保提供の資料として大山から提出を求められた「合計残高試算表」(同年七月から一一月まで)及び「財産目録」を白河税務署へ提出した。右資料からは担保提供の合理的理由も必要性もないのにかかわらず、また右資料を検討する時間的余裕さえおかず、白河税務署は、前記6(二)の合意の実行として、同月一四日、担保期間を九か月延長し、担保額を約三〇〇〇万円増額した。

8 大山は、昭和五四年ころ、その職務の執行に関し前記6(二)の合意の実行として、「古市がいる限り会社の存続は保証しない。」等と発言した。

9 前記6ないし8によつて、原告古市は、原告会社の代表取締役を辞任せざるを得なくなり、昭和五四年八月原告会社を退社させられた。

一〇 損害

(一) 役員報酬の喪失

昭和五四年から同五五年一月までの五か月分につき、原告会社に在職していたならば得べかりし一か月七二万円の役員報酬。

(二) 慰謝料

永年続いている酒造家の代表者の資格を失つたことによる社会的信用の失墜はひとかたならず、その精神的苦痛を慰謝するには少なくとも右金額を要する。

(三) 資産処分による損害

原告会社代表者を辞任することにより、原告会社に対する債権者東食株式会社から保証債務の履行を求められたので、右債務を担保とするため右会社に対し抵当権を設定した岡山県倉敷市所在の原告古市所有の土地三〇〇坪(時価九〇〇〇万円相当)を六〇〇〇万円で売却せざるを得ず、右時価との差額相当の損害を受けた。

(四) 配当の喪失

右ないし4により原告会社の経営が悪化したため、原告古市は、自己所有の原告会社株式(六四万株、額面合計三二〇〇万円)について、原告会社において従来行われていた一割の配当を得られなかつた。

(五) 以上合計 四六八〇万円

(被告の責任)

一一 以上のように、被告は、公権力の行使に当たる被告の公務員である白河税務署長、大山らがその職務の執行を行うにつき違法に原告らに与えた損害について、国家賠償法一条一項に基づき責任を負うべきである。

(結論)

一二 よつて、原告会社は被告に対し金二億九四三六万二〇〇〇円、原告古市は被告に対し金四六八〇万円及び右各金員に対する本件訴状送達後である昭和五五年二月九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

(当事者)

1 請求原因は認める。

(原告会社に対する不法行為)

2 請求原因2(酒類の検定不履行)について

(一) 請求原因2(一)中、昭和五三年一一月中旬ころ、原告会社が大山にリビエルの原料に「もみ米」を使用したい旨申し入れた点は否認し(原告ら主張のころ、大山は原告古市と会つていない。)、その余は不知。

(二) 同2(二)中、原告会社が昭和五四年五月五日、A-三号の酒類の仕込みを開始したこと、同月一六日右酒類の検定方の申出をなしたことは認め、A-三号の酒類が米を「もみ米」のままで使用したものであること、同月一六日、A-三号は上槽に適するところとなつたことは、不知で、その余は否認する。

(三) 同2(三)は否認する。

酒税法四一条は、酒類の検定制度の目的、機能から、検定対象たる酒類の使用原料及び製造方法等が明らかになつていることを検定の当然の前提としているが、A-三号の酒類については、原告会社が使用原料及び製造方法を明らかにしなかつたので、白河税務署は、当該酒類の種類の確認(A-三号は、清酒に該当するか)ができず、製造数量、アルコール分及びエキス分の適否について検討なしようがないため検定を保留し、その後の右の使用原料等が明らかにされなかつたため検定できないまま時日が経過し、そして、A-三号の酒類が腐敗したことにより検定できなくなつたのである。

すなわち、原告会社は、昭和五四年三月五日、白河税務署長に対し、酒税法四七条一項に基づきA-三号の仕込み原料として「もみ米」を使用する旨の申告をしていたが、その後「もみ米」に替えて「粉米」と訂正申告した。また、同年五月五日、大山らが調査のため原告会社に臨場した際、大山らはA-三号の仕込みの分離かすにもみがらが混入しているのを現認したので原告会社の井上久寿男代表取締役らに対して、「もみ米」の使用事実、仕入先等を確認したが、回答を得られなかつた。そこで、同月九日、仙台国税局酒税課鈴木検査係長らが、原告会社の金沢淳二開発部長にA-三号に使用した原料について質問し、同人より、原料は特殊粉米(「もみ米」を温度一〇〇度くらいで煎つた後粗く粉砕した米粉)であるとの回答を得た。特殊粉米を清酒の原料とすることは前例がなく、国税係官としては、特殊粉米がどのような原料をどう加工して得られたものか仕入先について調査する必要があり、調査したが、原告会社からは仕入先から交付される納品書等の提示もなく、原告会社が仕入先と称していた会社の存在もあいまいで、その所在も確認できなかつた。

さらに、前記金沢部長の回答について、大山らが現認したもみがらが、煎り、粉砕した状態のものでなかつたので、同月一〇日、仙台国税局酒税課三部監理係長が金沢に確認したところ、金沢、A-三号の仕込みに「もみ米」を使用したかどうか現認しておらず、原告古市から聞いたことを述べた旨答えた。そこで、右係長は原告古市に尋ねたが、原告古市は、A-三号の原料及び具体的な加工処理方法等について明らかにしなかつた。したがつて、国税係官としては、原告会社の答弁があいまいで、A-三号の仕込みの原料についての疎明資料の提供も十分なされない状態では、原料として何を使用し、どのように加工処理したのかわからず、製成された酒類が清酒に該当するか確認できない状態にあつたので、同月一七日、大山は、原告に対し、右理由により検定を見合わせざるを得ない旨伝えたのである。

原告会社が白河税務署等に前記酒類の原料に「もみ米」を使用していることを明らかにしてきたとは到底いえない。すなわち、原告会社は、従来、米ぬかを「粉米」として申告してきていたし、酒税法四七条一項所定の申告書においても「もみ米」と「粉米」をそれぞれ区分して記載してきていたから、原告会社が申告書記載「もみ米」を「粉米」に改めたことは、単なる表現の訂正にとどまるものといえない。また、白河税務署の係官も「もみ米」と「粉米」は異なる原料を指すものと考えていた。

(四) 同2(四)中、原告会社が、A-三号の酒類について昭和五四年六月一日火入れを行つたこと、同月二七日ころ右酒類が腐敗したこと、白河税務署の職員が、A-三号の酒類の検定をしなかつたことは認め、検定が保留されたことと原告ら主張の腐敗との間の因果関係は争う。A-三号酒類が腐敗に至る経緯は次のとおりであり、右腐敗は原告会社の不適切な製造管理、保管管理によるものであつて、検定とは何ら関係がない。

まず、第一に、A-三号の酒類は、その製造工程中に既に乳酸菌に汚染されていた。すなわち、白河税務署の職員が、A-三号の酒類の仕込み後三日目(昭和五四年五月八日)のもろみの一部を採取し(酒税法五三条の当該職員の権限に基づくもの。以下酒類の採取について同じ。)、国税庁醸造試験場において分析したところ、右もろみ中に無数の細菌の存在が確認されており、また、原告会社からろ過及び火入れの申出があつた同月三〇日に、A-三号酒類の一部を採取と仙台国税局鑑定官室で分析したところ、多数の乳酸菌の存在が確認されている。このような汚染の原因としては、本件酒類は糖化液を本件酒類の原料として使用しているところ、糖化液中に乳酸菌が混入していたか、またはA-三号酒類のような低アルコールの酒類(製成後のアルコール度数六度程度)を製造する場合は、ビール(同四度程度)を製造する場合と同様に、細菌汚染を防止するため、原料の加熱殺菌及び製造場の冷却化を適切に行うとともに製造工程の密閉化と厳密な衛生管理を行うことが必要であるのにもかかわらず、原告会社がこれらの措置、配慮に欠いていたことにあると考えられる。

第二に、A-三号の酒類は、火入れにより酒質保全を図られた後、原告会社の製品管理不適切のため、再度、火入れ前の菌とは別個の乳酸菌に汚染され、腐敗したものである。すなわち、白河税務署職員が火入れ直後(同年六月一日)のA-三号の酒類の一部を採取し、仙台国税局鑑定官室で分析したところ、乳酸菌等の生酸菌は検出されず、当初の乳酸菌は火入れ殺菌により死滅したことが確認された。そして、腐敗後の同月二八日、A-三号の酒類の一部を採取し、仙台国税局鑑定官室で分析したところ、多数の乳酸菌が検出されたが、右乳酸菌は、形態、生酸量、アルコール耐性及び香気の点で火入れ殺菌前の乳酸菌とは異質の菌株であることが確認されている。このような再度の汚染が生じた原因としては、火入れ後の貯蔵に際しての貯蔵タンクの洗浄、殺菌不良、密閉不十分、異物混入等が考えられる。

なお、そもそも清酒が本件におけるような短期間に劣化し、あるいは腐敗することは、一般の酒類製造者においては到底起こり得ないことであり、極め異常なことである。すなわち、一般の例では、清酒は夏前に製造され、夏の間は貯蔵されたまま微か月を過ごし、しかる後製造場から移出されて一般消費者の手に渡るのであり、もともと蔵の中のタンクに少なくとも数か月は保管されることが予想されているのである。これはもとより検定の有無によつて左右されることがらではない。

3 請求原因3(取引先への圧力)について

(オリオンビール関係)

(一) 請求原因(一)は不知。

(二) 同3(二)中、昭和五三年一二月二六日白河税務署で原告ら主張の人々が会う機会をもつたことは認め、その余は否認する。

右集まりの目的は、原告会社に役員の大幅な異動等があり、酒類製造業者に対して、国税局及び税務署は指導、監督の職責を負つているので、原告会社の経営状況を正確に把握することであつた。その席上で話し合われたのは、役員の変更、業界との正常化、アルカリ清酒の通信販売、大口債務の返済等であり、オリオンビールとの技術販売提携の件については何も話されなかつた。

(三) 同3(三)中、技術販売提携が破綻した点は不知で、その余は否認する。

(ヌマノ関係)

(四) 同3(四)は不知。

(五) 同3(五)中、原告会社が白河税務署に交渉の経過を説明したことは否認し、その余は不知。

(六) 同3(六)中、松下鈴木がヌマノに通知した点及びヌマノが輸入販売契約締結を断念した点は不知で、その余は否認する。

(差押への関与)

(七) 同3(七)中、原告会社が東駒株式会社の工場財団の所有権移転を受けたことは認め、その余は不知。

(八) 同3(八)中、大山が原告会社の祭原に対する売掛金債権の存在を福島県に知らせた点、差押により原告会社が信用を失つた点は否認し、その余は不知。

(過剰調査)

(九) 同3(九)f否認する。

原告会社は、酒税担保の提供に代えて酒類を保存している(これは、原告会社の申請に基づく。)ところ、これの変換の申出、酒類の検定の申出等原告会社からの要請に基づく調査が税務調査の相当部分を占めるほか、原告会社は毎月のように酒税を滞納したり、清酒及びしょうちゅう乙類以外には製造免許を受けていないのにもかかわらず米ビール、米ウィスキー等と称する製品を発売したりしていたため、被告は酒税の滞納や違法行為の未然防止を図る必要があり、法令で定められた範囲内で必要最小限の調査を行つたに過ぎない。

4 請求原因4(信用毀損)否認する。

5 請求原因5(毀損)について

(一) 請求原因5(一)は、同2(四)によりタンク九本が損失した点は否認し、その余は不知。

(二) 同5(二)は、「同2ないし4により」との点は否認し、その余は不知。

(三) 同5(三)は否認する。

6 請求原因6について

(一) 請求原因6(一)は、山田が原告会社の代表取締役を退任したことは認め、その余は不知。

(二) 同6(二)は、原告ら主張の時に石倉と山田が会つたことは認め、その余は否認する。

石倉らが山田と会つたのは、それまで原告会社の代表取締役として同社の再建、業界との信用回復に努めてきた山田が取締役を退任したことに伴い、原告会社の今後の動向、とくに大口債務の返済問題についての実情把握を目的とするもので、仙台国税局関税部長としての職責に基づくものである。

7 請求原因7について

(一) 請求原因7(一)中、白河税務署長から原告会社に対する酒税法三一条に基づく担保提供命令が別紙一りのとおりであることは認め、その余は否認する。

白河税務署長が、昭和五四年一月一八日原告会社に対し二億五六〇〇万円の担保提供を命じた理由は次のとおりである。

酒税保全のため担保の提供等を命ずる場合の金額は、当該納税者について強制換価手続が開始されるという最悪の自体が発生した場合にも酒税の徴収不足を防止するため、〈1〉既に納税義務の成立(国税通則法一五条参照)している前月分の酒税、〈2〉当月中に成立の見込まれる酒税、〈3〉〈1〉の酒税が酒税法三〇条の四に定めた納期限までに納付されたかどうか確認が可能な日までに成立の見込まれる酒税、の合計額を確保する必要がある。

これを昭和五四年一月一八日現在の原告会社について見ると、別紙二のとおり、右〈1〉ないし〈3〉に相当する金額は合計二億五五三六万九三〇〇円となる。そこで、白河税務署長は当時原告会社に提供を命じていた担保額では不足するところから、右金額に相当する二億五六〇〇万円の担保提供を命じたのである。また、原告会社の昭和五四年一月、二月分酒税課税額は別紙三のとおりであり、一月分は右〈2〉の数額を、二月分のうち〈3〉の日までの酒税に相当する部分(二月分の二八分の五)は右〈3〉の数額を上回つており、この点からも担保提供命令の金額が不当なものでないことは明らかである。

(二) 同七八五三二 前段中、大山が原告古市に対して、昭和五三年一二月分の酒税が莫大なので担保が不足すると説明したこと、原告会社が増担保を提供したことは認め、その余は否認する。なお、大山は、昭和五四年一月分の酒税も莫大なものと予想される旨の説明もした。

後段中、白河税務署長が昭和五四年一月末に増担保分を解除しなかつたこと、同年六月に六か月の担保延長を行つたこと、白河税務署の職員が昭和五五年一月一九日原告会社所有の清酒の入つた容器に封を施したことは認め、卸価格の点は不知で、その余は否認する。

(三) 同7(三)中、昭和五四年一二月一三日、原告会社から「合計、残高資産表」が提出されたことは認め、その余は否認する。

8 請求原因8は否認する。

9 請求原因9中、原告古市が昭和五四年八月に原告会社を退社した点は不知で、その余は否認する。

一〇 請求原因10(損害)について

(一) 請求原因10(一)中、原告古市の役員報酬の点は不知で、その余は否認する。

(二) 同10(二)は否認する。

(三) 同10(三)は不知。

(四) 同10(四)中、原告古市の所有株数は不知で、その余は否認する。

(五) 同10(五)は争う。

一一 請求原因11(被告の責任)は争う。

一二 請求原因12(結論)も争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

(当事者について)

一  請求原因は当事者間に争いがない。

(原告会社に対する不法行為について)

二 請求原因2(酒類の検定不履行)について

1  請求原因2中、原告会社が、昭和五四年五月五日、A-三号の酒類(商品名「リビエル」。以下「A-三号」という。)の仕込みを開始したこと、同月一六日、白河税務署に対しA-三号の成功検定方を申し入れたこと(以上、請求原因2(二))、同年六月一日、火入れをしたこと、A-三号が同月二七日ころ腐敗したこと(以上、同2(四))、以上の事実は当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない乙第三、第四号証、第五号証の一ないし三(同号証の二、三の欄外書込み部分は分離前相被告大山清孝本人の供述により成立を認める。)、第一〇号証、第一一、第一二号証(いずれも原本の存在、成立ともに争いない。)、第一三ないし第一八号証、第二三ないし第二五号証、証人井上久寿男の証言により成立の認められる甲第一ないし第五号証(前掲乙第二三ないし第二五号証、分離前相被告大山清孝本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により、白河税務署に提出された書類の正確な写しではなく、右提出された書類の類似する内容の控えであると認められる。)、証人橋本芳洋、同井上久寿男、同古川金太郎の各証言(証人井上、同古川の証言については、後記採用しない部分を除く。)、分離前相被告大山清孝本人及び原告本人兼原告会社代表者古市瀧之助の各尋問の結果(原告本人兼原告会社代表者尋問の結果については、後記採用しない部分を除く。)、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。証人井上、同古川、原告本人兼原告会社代表者の各供述中、右認定に反する部分は採用できず、その他右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告会社ではかねてより、A-三号の製造に用いられたのと同様の方法で酒類を製造し、これを「米のビール」(商品名「リビエル」)として販売することを企画していた。企画当初の段階では、右企画にかかる酒類の製造方法は一般に行われている清酒の製造方法に類似していたが、一般の清酒製造では原料として白米(「もみ米」を脱穀、精米したもの)を粉砕したもの(一般に「粉米」といわれるもの)を使用しているのに対し、右企画に係る製造方法では、これに代えて、「もみ米」をそのまま水に浸して発芽させ、乾燥、粉砕したものを用いている点に特色があつた。

右企画は、昭和五三年当初までは一般には知られておらず、国税関係の係官に対しても、少なくとも正式には報告されていなかつた。ところが、同年二月上旬、右企画が新聞紙上で報道されたことから、白河税務署でも右企画の存在を知るに至り、その際、同税務署では、原告会社に対し、新製品の企画等に際しては右税務署と連絡をとらないまま軽率な措置に出ることのないよう口頭注意した。しかし、その後も、同年三月に至るまで、原告会社から国税関係官庁に対し右企画に関する説明はなされなかつた。

(二)  原告会社は、昭和五四年三月五日、同社を訪れていた白河税務署上席調査官の橋本芳洋に対し、右企画に係る酒類製造に伴う原告会社の同年度酒類等製造見込数量等(異動)申告書を手渡した。右申告書記載の製造予定酒類は、A-三号ほか二本(以下、これらを包括して「A号」という。)であり、申告書にはA号の種類は「清酒」と記載され、原料には「もみ米」との記載が含まれていた。橋本は、A号の原料に一般の清酒製造に用いられない「もみ米」が使用される予定とされていたことから、A号の原料、製造方法を確認する必要があるものと認め、白河税務署に電話して大山の指示を受けたうえ、その場で、数時間にわたり、原告会社に対し、A号の製造方法(とりわけ、「もみ米」の加工処理方法)についての説明を求めた。原告会社では、杜氏の古川金太郎が対応したが、古川は、「もみ米」は発芽させて使用するのではないことなどを説明したものの、それ以上の詳細な製造方法については、当時リビエルの製造方法が原告会社の機密事項とされていたことや、右申告手続においては申告に係る酒類の製造方法を申告書に記載することを要しない扱いがとられていたこと等を理由に説明を拒否した。そこで、橋本は、右申告書の取扱を留保したうえ、右書面を原告会社から預つて白河税務署に戻り、原告会社における事情を大山に報告した。

白河税務署では、原告会社に対し、A号の製造方法についての詳しい説明を求めたが、原告会社は、大山に対する電話で、古川を白河税務署に出頭させて詳しい説明をさせる等と回答したものの、実際には古川は同署に出頭せず、A号製造に関する詳しい事実関係は不明確のままであつた。

ところが、同月十五日、原告会社から白河税務署に対し、前記の申告書の一部(「清酒もろも1仕込製造方法」)を差替えたい旨の申しれがあつた。原告会社が差替様に用意した書類は、従前のものとほぼ同内容であつたが、原料の記載中、従前の「みも米」五五〇キログラムと「粉米」五〇キログラムに相当する部分が、「粉米」六〇〇キログラムとなつていた。白河税務署では、右差替えの申入れに応じたうえ、差替え後の申告書について、申告を同日付けで正式に受理する手続をとつた。

(三)  その後、白河税務署と原告会社との間て、A号の原料、製造方法等に関する調査、若干の回答が行われ、同月四月上旬には、原告会社から白河税務署長宛で、A号の原料には発芽した米は使用しないこと、原告会社で企画中の「もみ米」を原料とする酒類について、その材料の仕入れ先等がいまだ未確定の状態であること等の内容の書面が提出される等した。

また、A号の酒類三本のうち、A-三号以外の二本については、仕込みが行われ、それぞれ同年四月十九日、五月七日に成功検定が行われたが、この間を通じ、これら二本のA号に原料として「もみ米」が使用されていることを窺わせる資料は認められなかつた。

(四)  A-三号の仕込みは、同年五月五日に行われた(この点は当事者間に争いがない。)。同日、原告会社では他のA号のびん詰め作業が行われることとなつており、そのビン詰め作業の確認調査のため、大山ら白河税務署係官が原告会社に赴いたが、その際、右係官らは、原告会社において、A-三号の糖化液のかすにもみがらが混入しているのを確認した。これはA-三号に原料として「もみ米」が使用された可能性等を示唆するものであつたため、係官らは原告会社職員に対し、「もみ米」使用の事実の有無やA-三号の製造方法について説明を求めた。しかし、同社代表取締役の井上久寿男をはじめ原告会社関係者から十分な説明がなされなかつた。

(五)  このため、白河税務署では、仙台国税局と協力して、原告会社に対する事実調査を開始した。しかし、右調査に際しても、たとえば、原告古市はA-三号の原料に「もみ米」を使用したことは認めたものの、具体的な製造方法の説明を避けたり、大山に対して後日仙台国税局に出頭して詳細な説明をする旨約束しながら出頭をしなかつたり、係官の原告会社開発部長金沢順一に対する質問によつても、右原料、製造方法の解明に役立つ成果を得るに至らなかつた。また、原告会社は、「もみ米」の入手先に関する照会に対し、一応の回答をしたものの、その回答は遅く、内容的にも不明確な点が多かつた。

(六)  右(五)と平行して、原告会社は同年五月十六日に成功検定の申入れをなした(この点は当事者間に争いがない。)が、白河税務署としては、当時の段階ではA-三号の原料、加工処理方法が明確でなく、したがつて、A-三号が清酒に該当するか否かを判断するに十分が資料がないとして、右検定を見合わせた(その後、大山は、原告古市に対し、電話で右事情を説明した。)、

3  ところで、酒税法所定の酒類検定制度の趣旨、機能に照らすと、検定に際し、その対象となる酒類の使用原料、製造方法等が検定者に明らかになつていることは、検定の当然の前提であるというべきである。

そして、右1、2の事実に照らすと、原告会社が検定を申し入れた昭和五十四年五月十六日から、A-三号が腐敗した同年六月二十七日ころまでの間において、相当の調査をしてもなおA-三号の使用原料、製造方法が明確になつていないとして検定を保留した白河税務署職員の措置に違法な点を見出すことはできない。

4  よつて、請求原因2は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

三 請求原因3(取引先への圧力)ついて

1  請求原因3(一)ないし(三)(オリオンビール関係)については、同(三)中、国税係官らがオリオンビールに圧力を加えたとの事実を認めるに足りる証拠はない(原告本人兼原告会社代表者尋問の結果中、右の点に関する部分は、あいまいな伝聞の域を出ず、分離前相被告大山清孝本人の反対趣旨の供述に照らし、採用できない。)。

2  同3(四)ないし(六)(ヌマノ関係)についても、同(六)中、白河税務署職員大山らが松下鈴木に同(四)の輸入販売契約締結交渉の情報を知らせたとの事実を認めるに足りる証拠はない(原告本人兼原告会社代表者尋問の結果中、右の点に関する部分は、あいまいで、分離前相被告大山清孝本人の反対趣旨の供述に照らし、採用できない。)。

3  同3(七)、(八)(差押への関与)についても、同(ハ)中、大山が福島県に原告会社の祭原に対する売掛金債権の存在を知らせたとの事実を認めるに足りる証拠はない(証人井上久寿男の証言及び原告兼原告会社代表者の各供述中、右の点に関する部分は、いずれも具体的根拠に乏しく、分離前相被告大山清孝本人の反対趣旨の供述に照らし、いずれも採用できない。)。

4  同(九)(過剰調査)について

分離前相被告大山清孝本人及び原告本人兼原告会社代表者の各尋問結果によると、仙台国税局及び白河税務署は、原告会社に対し、昭和五四年度中に約三〇〇人の係官を派遣していたこと、右は通常の酒類製造者に対する調査のため派遣される人員に比較すると大規模なものであつたことが認められる。

しかしながら、分離前相被告大山清孝本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は、その申出に基づき、酒税の担保として酒類を保存することとされており、そのため、税務署としては、保存酒の変換等に伴う、検査を行う必要があつたこと、税務署では、原告会社の製品については、その申出に基づき、酒類の検定を実測検定の方法で行うこととしていたこと、原告会社においては、前記二のとおり、リビエルに対する成功検定をなすべきか否か等の点につき疑義があり、そのため、税務署としては、右疑義に関する事実関係を確認する必要があつたこと等の特殊事情があつたこと、原告会社に派遣された係官の大部分はこれらの特殊事情に伴う検査等に従事していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実に照らすと、原告主張の係官派遣、各種調査をもつて、直ちに原告会社に圧力を加える目的のものであつたとか、違法なものであつたとかということはできないというべきである。

5  したがつて、請求原因3は、いずれも理由がない。

四 請求原因4(信用毀損)、これを認めるに足りる証拠がない(原告本人兼原告会社代表者尋問の結果中、この点に関する部分は、首尾一貫せず、成立に争いのない乙第二八号証(昭和五四年七月七日付福島民報)の記載記事とも整合しないことに照らすと、採用することができない。)。

五 よつて、白河税務署長、大山その他被告の公務員の行為が原告会社に対する不法行為を構成するものでないことは明らかであるから、原告会社の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

(原告古市に対する不法行為について)

六 請求原因6について

(一)  請求原因6(一)中、山田が原告会社の代表取締役を退任した点は当事者間に争いがなく、成立に争いない乙第二一号証の四、原告本人兼原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、山田が原告会社の取締役の地位を失つた事実が認められるが、その余の事実については、これを認めるに足りる証拠がない。

(二)  同6(二)中、山田、石倉両名が会談した点は当事者間に争いがない。しかしながら、右会談において原告主張の合意が成立したとの事実は、これを認めるに足りる証拠がない(原告本人兼原告会社代表者尋問の結果中、右の点に関連する部分は具体性に乏しく、その内容から原告主張の右合意の成立を推認するに十分でない。)。

七 請求原因7(増担保等)について

(一)  請求原因7(一)中、別紙一のとおり担保提供命令等がなされた点は当事者間に争いがない。

そこで、右担保提供命令等(とくに、昭和五四年一月一八日のもの)違法性につき判断する。一般に、酒税保全のための担保額を決定する際には、当該納税者に賦課され、確実に徴収されるべき酒税額が考慮されるべきところ、右考慮されるべき酒税額には、〈1〉既に納税義務の成立している前月分酒税、〈2〉当月中に成立見込みの酒税、〈3〉前月分酒税が納期限までの納付されたかどうかを確認できる日までに成立見込みの酒税が挙げられる。ところで、成立に争いない乙第八号証の一ないし三、第二一号証の一ないし三、分離前相被告大山清孝本人尋問の結果により成立の認められる乙第七号証一ないし三、原告本人兼原告会社代表者及び分離前相被告大山清孝本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、白河税務署においては、昭和五四年一月一八日時点で原告会社に対する右〈1〉ないし〈3〉の酒税額を別紙二のとおり試算していたこと、そして、実際に発生した酒税額も、別紙三のとおりであり(この金額は、昭和五十四年一月については、右〈1〉は別紙二と同額、右〈2〉〈3〉は別紙二の見込額を上回る額である。)、これに照らすと右試算は相当なものであつたといえること、原告会社には過去にも酒税滞納の例があり、その他多額の債務を負担していたのであつて、白河税務署長としては、右のとおり原告会社に賦課されることが予想される酒税を確実に徴収できるよう十分な担保を確保しておく必要があつたことが認められ、以上の認定に反する証拠はない。右事実に照らすと、右担保提供命令等の金額(昭和五四年一月一八日付のものについていえば、別紙二の〈1〉ないし〈3〉合計額とほぼ同額で、別紙三から計算される同月時点の〈1〉ないし〈3〉合計額より低額である。)を不当なものということはできず、右担保提供命令等が違法でないことは明らかというべきである

(二)  同7(二)中、前段については、白河税務署長が昭和五四年一月一八日付けで行うこととなる増担保について、大山が原告古市に対し増担保の理由を前年一二月分の酒税が莫大なものとなるためと説明したこと、原告会社が増担保提供したことは当事者間に争いがない。しかしながら、その際、大山、原告古市間で原告主張の三条件が合意された事実を認めるに足りる証拠はない。

よつて、請求原因7(二)は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

(三)  同7(三)中、原告会社が「合計残高試算表」(ないし「合計、残高試算表」)を提出した事実は当事者間に争いがないが、その余の事実については、これを認めるに足りる証拠がない(もつとも、前記七(一)のとおり、別紙一のとおりの担保提供命令等がなされた事実は当事者間に争いがなく、その中には、原告会社主張の白河税務署長の昭和五四年一二月二一日付処分(担保金額を二八〇〇万円増額し、担保期間を九か月延長したもの)も含まれている。しかしながら、前記七(一)で認定した事実関係に照らすと、右処分が違法でないこともまた明らかである。)。

(四)  したがつて、請求原因7は、いずれも理由がない。

八 請求原因(八)は、これを認めるに足りる証拠がない。

九 よつて、白河税務署長、大山その他被告の公務員の行為が原告古市に対する不法行為を構成するものでないことは明らかであるから、原告古市の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

(結論)

一〇 以上の次第で原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 根本久 裁判官 土屋靖之 裁判官 金子直史)

別紙一

〈省略〉

〈省略〉

(注) 原告会社から酒類以外に提出すべき担保物件がないとして酒類の保存命令の申請があったためなされたもの。

別紙二

〈省略〉

別紙三

原告会社の酒類移出数量及び酒税課税額の推移

〈省略〉

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